Usually of Sculpture

The talk|August 10 2018

日常と彫刻

見る人の視点や、その時の感情によって、不思議と趣や印象が変わってくるオブジェ。決まったモチーフがあるものもあれば、抽象的で受け手に捉え方を委ねているものも多い。彫刻家の福井守さんが手掛ける木製の彫刻は、その後者の最たるものだ。「見る人が想像する余白があった方が良い」と考え、1つ1つにあえて名前は付けられていない。今回は特別に、福井さん本人に作品の意図や、ものづくりの真意を聞いた。

「まわりからは彫刻家、造形作家など様々な呼ばれ方をしますが、自分自身は“木の繋ぎ手”という役目だと思っています。だから用いる原材料は、すべて私の日常で見つけた木材や自分と縁があり巡ってきた木を使用しています。腐れ菌で青緑に変色していた桜の枝はアトリエのある兵庫県篠山市の山奥で見つけたもの。他にも友人宅の庭で切り落とした枝や、アトリエ近くの湖で拾った流木があります。旅行や仕事で見知らぬ地へ行く時は、事前に散策できそうなエリアを調べて、その道中で探しに出掛けることもあります」と材料調達からこだわりが詰まった福井さんのものづくり。

「ひとつの役目を終えた木の運命の一端に、たまたま私が立ち会い、それを次の使い手に橋渡しするまで。だから、拾って持ち帰る時は、形や色などを吟味して創造力を掻き立てられたものだけを調達するようにしています。すべては木との巡り合わせです」。そして、持ち帰った木を眺めたり、手で探りながら作品の全体像を決めていくという。
「以前、旅行中に立ち寄った広島県尾道の海で拾ったのが、この流木(樹種不明)です。痛んだ風合いがよく表れた右端を使用しようと決めて、その劣化を生かすために少し寝かせてから加工に取りかかりました。色が黒くなって見えるのは、表面に鉄染めを施して黒く発色させているからです。自分なりに木の特徴を捉え、どう作品に生かすかを常に考えています。」

「自分の気持ちが変われば手に取る木も変わってきます。奈良県吉野の山奥近くのダムから持ち帰った流木は、素材を生かすためにあえてオイル仕上げをせず、無垢のまま仕上げました。適度な油分のあるウール(獣毛)で磨き上げることで表面を滑らかに。見た目と実際の重さにギャップがあるのも、この作品の面白いところです。ほかの作品においても、視覚だけでなく触覚まで刺激するものになるように心がけています」。そんな想いを持っているから福井さんの作品は手に取ることで不思議と愛着が芽生えてくる。

「日常にあることで、その場の空気が少しだけ濃くなったり、スッと心を整えるような作用のあるものとしてオブジェ(彫刻)を捉えています。日常で見つけた木材が形を変えてみなさんの日常生活に溶け込むものになれば嬉しいです」



福井守(ふくい・まもる)/1985年兵庫神戸生まれ。彫刻家。奈良県東吉野村に移住し、アトリエ“SEBATO”をオープン。
現在は兵庫県篠山市に移転。「日常と彫刻」をテーマに作品を制作する。

Text: Keiichiro Miyata