Heritage of Ancient Chemistry

The story|June 1 2019

古代化学の遺産

黒と白を基調にした08bookの空間のアクセントになっているのが、鈍く光る“真鍮”。ドアノブや蝶番といった建具や、店頭に並ぶ作品に散りばめられている。その出生は諸説あるが、ときは6世紀。ペルシャで行なわれた大規模な合金製造が始まりとされる。その後、宗教の伝来とともにインドや中国を経由して東方へ広まり、文化や風土、また目的に応じて、かたちや用途を変えてきた。日本においては、奈良市の正倉院宝物殿の建設時に、職人が費用を浮かせるため無断で真鍮を用いた跡が散見されるなど、純金と遜色ない艶やかさを示す逸話が残っている。

真鍮に興味を持つきっかけになったのが、1950年代にカール・オーボック2世によってデザインされた卵型のペイパーウェイトの美しさに触れてから。ヨーロッパでは、イタリアのルネサンス期より、真鍮細工が産業として栄え、ドイツの化学者、アンドレアス・マルクグラーフが進歩させた精錬技術によって供給が安定したことで、実用品から芸術の分野まで活用の幅を広げてきた。

そして、現代でも作家やデザイナーの創作を刺激し、“古代化学の遺産”として永く後世に受け継がれている。すべては、真鍮が持つ、時代や文化を越えた普遍的な魅力があるからこそ。人類が築いてきた文明の歴史が、それを証明している。

Text: Keiichiro Miyata

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