部屋の片隅に飾るだけで、場の雰囲気を変える器。そこに、作家が意図していることを汲み取りながら、花を生ける。それもまた、器の愉しみ方のひとつ。オープン以来、08bookの庭園や装飾花を手掛ける「Plant’s Planet Garage」の西川かをり氏が手掛ける、器と花の世界。
「まず、器と花のバランスにおいて原則や決まったルールはありません。人の感性の数だけ正解があると、私は思います。だから、あまり難しく考えないで下さい。せっかく気に入った器を手にしたなら、その特徴や面白さを自分なりに捉えて花を添えることで、さらに空間が生きて見えるはずです」という西川さんの考え。普段どんなことを意識して花を生けているか、08bookの装飾を手掛ける仕事現場におじゃました。
まず取りかかった、独特の色彩感覚のある打田翠氏の陶器。約1000度の窯で焼成後、もみ殻などの中に入れて燻し、水中で急冷することで薄紅色の釉薬が浮かび上がるという。「陶器の特徴である薄紅色を生かし、器と同調するように内側が赤いユーカリを添えました」と色のトーンに目を向けていた。「一本ずつ花を生けてみて、何か違うと思ったら、ひと前の手順からやり直す。柔軟に捉えられるように、あまり生ける前から決め込まないのもポイントです」
こちらの器は“和”なテイスト。釉薬は使わず、赤松を燃料に高温で焼成することで煤(すす)を付着させ、素地そのものを黒く窯変させる、船越保氏独自の手法を用いた作品。「ひとつひとつ濃淡や光沢が異なる黒陶は、ズッシリと男っぽいイメージがあるので、勢いのある草ものや、不規則に延びる枝で、力強さを加えました」。ひとつだけでなく、複数の花器を使うことで、それぞれ違った動きを出すアレンジも。「器と向き合いながら作家が意図したことに気付けることがあって、作品の奥行きを感じられるのも花を生ける面白さです」
「はじめは、どうしようか悩んだ」と最も苦戦した様子だった、独特な模様が描かれた小前洋子氏の作品。すべて漂白が施された植物を選び、あえて無機質なエッセンスを加えることで、作品の個性を邪魔すること無く、トータルでオブジェのようなムードに。「ほかと比べると、これがいちばん女性らしい仕上がりです。器の形や柄に個性がある分、どうアプローチすべきか悩みましたが、これを生けられたら私もひと皮剥けることができる、という思いで挑戦しました」。どの器に対しても、リスペクトを持って取り組む西川さんの“器と花”への姿勢。シンプルなガラス瓶だけでなく、気に入った花器が自宅にひとつあれば、暮らしの愉しみが増えはずだ。
西川かをり/「Plant’s Planet Garage」主宰
ショップやディスプレイなどの装飾花や植栽ほか、カタログや広告などのヴィジュアル製作にも関わる。
Text: Keiichiro Miyata