繊細で滑らかなフォルムと巧みに調合された釉薬が作り出す質感。08bookのミニマルな空間に、凛然と佇む白と黒。それらの陶器を生み出したのが、 スウェーデンを代表する陶芸家、 カール=ハリー・スタルハネ。北欧モダンデザインの礎を築いたスタルハネについて、北欧モダンデザインを専門に扱うショップ「ELEPHANT」を主宰する吉田安成さんに話を訊いた。
「北欧では、1930〜40年代頃、“日常生活をより美しく”というスローガンのもと、アーティストやデザイナーたちが食器をはじめとした日用品のデザインを手がけるという動きが盛んでした。当時、スタルハネは、スウェーデンの主要陶器メーカー、ロールストランド社のアートディレクターとして、スウェーデンのモダンデザインを牽引する存在として知られていました。スタルハネをはじめとする芸術家の活躍もあって、スカンジナビアモダンデザインは50年代に華開くことになります」と吉田さん。現代でも多くの人々を惹きつける北欧諸国から生まれるデザイン。吉田さんが興味を持ったきっかけは、大学時代に出会ったバッグだった。
「偶然手に取ったマリメッコのバッグが気になって。その頃は、ネットが今ほど普及していなかったので 、マリメッコの本が置いてあるインテリアショップに足を運んで、そこではじめて北欧のブランドだと知りました。その出会いがきっかけで、いろいろな家具や陶器を見ているうちに北欧の陶器に傾倒していきました」。スカンジナビアモダンデザインは、アースカラーを取り入れた柔らかな色使いと繊細なフォルムを特徴とする。それは、日本人に馴染みのあるスタイルとも言えるのだという。
「もともと、焼き物文化は東洋の方が進んでいて、西洋の芸術家が東洋の陶器の形を模して作っている作品もある。特に、スタルハネを始め、50〜60年代の北欧の陶芸家は、釉薬や陶器のフォルムなど、日本や中国からの影響を色濃く感じさせます。当時、スタルハネをはじめとする北欧の陶芸家と日本の作家たちの間には実際に交流があったそう。北欧と日本のデザインには、美意識という点で共通した何かがあるのかもしれません。ただ、大きな違いとしてあげられるのは、東洋に比べ、北欧では陶器をアートとして捉える感覚が根付いていますね」。08bookに並ぶ白と黒の陶器も、実用性よりもアート性に重きを置いて製作された作品だ。
「北欧出身の陶芸家のなかでも、ここまでミニマルな白と黒の作品を製作したのはおそらくスタルハネだけでしょう。北欧デザインの黄金期と呼ばれる50年代に作られたこれらの作品は、アメリカの写真家、ロバート・メイプルソープの「Flowers」という作品シリーズに登場することでも知られています。とにかく、釉薬による色、そしてフォルムが美しい。半世紀以上前に作られたものが、今でも“美しい”と感じられるということはすごいことだと思うんです」。進化する時代のなかで、変わらない普遍を宿すこと。美しいアートピースに、どんな価値を見出すか。
Carl-Harry STALHANE exhibition
2017.10.13(Fri) – 11.5(Sun)
白と黒の希少なアートピース約20点が08bookのミニマルな空間に展示されます。
半世紀の時を経て、なおモダンで色褪せない美しいアートピースに触れて頂く貴重な機会です。
Open Friday through Sunday
From 11:00am-19:00pm
Closed Monday-Thursday
Profile
吉田安成 Yasunari Yoshida
北欧のヴィンテージデザインに特化したショップ「ELEPHANT」主宰。2006年にオンラインショップとしてオープン後、2008年に表参道裏に実店舗を構える。1950年代に世界を席巻した北欧モダンデザインを独自の視点でセレクトし。良好なコンディションのプロダクトを揃える。
http://www.elephant-life.com/
Text: Runa Anzai(kontakt)
Photo: Shinichiro Shiraishi